『平成三十年度 常磐津協会 定期演奏会ー江戸の響き 現代だからこそー』
2018年5月29日(火)13:00開演
於 日本橋劇場
入場料 3,500円
今回私は「戻橋」のタテ(小百合実は鬼女役)で出演させて頂きます。
「戻橋」は初め、河竹黙阿弥(1816-1893)が六代目岸澤式佐の依頼で素浄瑠璃として執筆したのを五世尾上菊五郎ので明治23(1890)年10月歌舞伎座で「戻橋恋の角文字」の題名で初演されました。
出演は七世常磐津小文字太夫(後の十四世家元)と社中でした。(役割は、扇折りの娘小百合実は愛宕の悪鬼・五世尾上菊五郎、郎党右源次・尾上幸蔵、同左源太・市川新蔵、渡辺源次綱・初世市川左団次)
この浄瑠璃は「土蜘」「茨木」等と共に尾上家の新古劇十種の一つになっております。
愛宕山に年を経て棲む悪鬼が都に出没して人々を恐がらせていました。帝は源頼光に警護をお命じになったので、頼光は渡部綱等四天王を初め諸勇士を率いて警備しています。
初めの大薩摩「それ〜」が曲の内容の勇ましさを現します。
頼光の使いで維仲卿の姫君の許を訪れた綱は、一条戻橋まで来ると美しい娘に声をかけられます。(この娘、小百合の出る「たどる大路に人かげも」の三下りの個所は曲も節付も好く、初めの聴かせ所です)
水に映った娘の影で悪鬼と判っても、知らぬ顔で綱は小百合を送っていきます。(その道行の「西へ回りし月の輪に」の個所も名節付で節として眼目です)
二人が足を休める徒然に綱は小百合に舞を所望します。
「空も霞みて八重一重…」の舞の件りは品のよい二上がりで聴き所です。この後、小百合は綱に恋心を寄せてクドキます。
「お情け深きお心に…」以下は初夏の風物に託した女心で、詞、曲共に面白く最大の聴き所です。
しかし遂に小百合は鬼女と見破られ、綱は名刀、髭切の太刀を抜いて立回りになります。(ここは三味線の聴かせ所であり、太夫は「我は愛宕の」の鼓唄で、位取りを示します)
綱は鬼女の片腕を切り落としますので鬼女は逃げ去ってしまいます。
聴き所、聴かせ所の多いこの曲は明治の活歴調にも拘わらず、常磐津として新鮮な味で変化に富んでいる為に、常磐津を稽古する愛好者は誰しも早く稽古したいと思う曲です。